2013年6月 のアーカイブ

研究会「耳を澄ます調査、すれちがう表現」趣旨

2013年6月25日 火曜日

今月6月29日に、「耳を澄ます調査、すれちがう表現」というタイトルで研究会を開催いたします。

音楽のような、立ち現れては消えていくものをめぐる経験を、いかに調査し、それをいかに記述・表現することができるのでしょうか。今回の研究会では、戦後日本の米軍基地と音楽についての調査研究をされている青木深さん(一橋大学特任講師)に話題提供をお願いしました。

青木さんは、戦後占領期から朝鮮戦争期に来日した米軍将兵と、当時そうした米軍に慰問を行った日本人楽団に関する調査研究に取り組まれ、その成果をこのほど『めぐりあうものたちの群像—戦後日本の米軍基地と音楽1945-1958』(大月書店、2013年3月)として上梓されました。

そうした調査研究を進めるにあたって、青木さんは、「音楽経験をいかに書くか」という問いが、その「出発点」となったといいます。そこで青木さんは、音楽を経験した個々人だけでなく、それに関連する物(楽器、衣服、レコード、楽譜)や、建物、地面など、音楽をめぐる様々な〈もの〉に眼差しを向ける調査をされてきました。

青木さんは、そのような調査を通して、当時米軍関係施設において音楽をめぐる様々な〈もの〉が「幾重にも交差—「出会い」あるいは「すれちがい」—していた状況」が「みえてきた」といいます。そこで青木さんは、そうした調査の中の「発見」を記述・表現するための方法として「連鎖的」な記述方法について検討し、実践することになりました。

それは、様々な〈もの〉の「錯綜的な交差に眼をこらし/耳をすまし、行き交う者/物たちの動きにつきしたがいながら、彼/彼女らが生きた時間/瞬間(音楽)の痕跡を辿っていく」という記述方法であり、『めぐりあうものたちの群像』では、そのような方法を用いた記述・表現の試みがなされています。

そこで今回の研究会では、そうした著作ができるまで、その調査の過程、作品化に至るまでの経緯、その中で模索された記述の方法などについての話題提供をもとに、調査と表現をめぐる諸問題について考える機会としたいと考えております。

またNPOサーベイでは、第1回の研究会から「調査と表現」という問題に一つの焦点をあて、様々な議論を重ねてきました(過去の研究会の記録は本ブログにて公開しておりますのでぜひご覧ください)。今回の研究会では、そうしたこれまでの「調査と表現」をめぐる議論とゆるやかに連続性をもちつつ、青木さんの調査と表現の実践から学び、活発な議論ができればと思っております。