社会調査の系譜とNPOサーベイ(3)

(前回よりつづき)

matsuo前回とりあげたポール・ケロッグの周辺で活躍した写真家、ルイス・ハイン(Lewis W. Hine 1874-1940)について話したいと思います。ハインはただの写真家ではありません。限りなく社会調査といってよい領域にまで踏み込んだ興味深い写真家です。

Hine_c1900ハインはアメリカのウィスコンシンに生まれました。初めから写真家になろうと志していたわけではありません。シカゴ大学やコロンビア大学では社会学や教育学を学んでいます。

写真に関わりはじめるきっかけは教育実践の中ででした。社会科の教材づくりの手段として、世紀転換期のニューメディアであるカメラ、写真に興味を持ったのです。

このような動機でカメラを手にしたわけですから、彼の撮影対象はもっぱら人と社会でした。

たとえば初期の作品にエリス島の移民を撮影したものがあります。当時は東欧からの移民が社会問題となっていました。アメリカの土を初めて踏んで入国審査にいどむ人たちの不安な眼……。彼は早撮りは好まず、大判カメラを丁寧に使って人の表情を精細に描写していきました。

Ellis_Islandハインはただ写真を撮るだけではありませんでした。写真を用いて積極的に社会的な発言をしていきます。自分の撮った作品を携えて講演活動をしたり、写真をコラージュしてポスターを作り世論に訴えたりします。

自然と彼は「ソシオロジカル・フォトグラファー」と呼ばれるようになりました。ときには「社会学者」とさえ呼ばれることもありました。

1907年にはアメリカ連邦政府の機関である児童労働委員会の依頼を受け、児童労働の現場の調査・撮影を始めます。児童労働の悲惨な現状を調査と写真をもって明らかにすることがハインの役割でした。

ハインはアメリカ中を旅して、児童労働の現場を見て回ります。とうぜん調査先の工場などでは歓迎されるはずもありません。時には探偵のような手段も使いつつ、フィールドワークを重ねていきました。

(つづく)

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