「盲ろう者へのインタビュー調査に挑む」印象記

去る7月23日に開催された研究会「盲ろう者へのインタビュー調査に挑む――通訳介助者から調査者へ」の様子をお伝えしていきます。まず第1回目は当日の様子をまとめてみたいと思います。

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松谷直美さんの話題提供は「調査対象者のリアリティを損なわない分析方法について考える――アッシャー症候群の盲ろう者の就労に関する研究」と題したものでした。

もともとは通訳・介助者として盲ろう者と関わっていた松谷さんですが、現在では大学院に入学し、盲ろう者の就労をテーマにした研究に取り組まれています。その経緯からはじまり、盲ろう者とのインタビュー調査の進め方やその問題、支援者であり調査者であることの難しさと可能性などについて話してくださいました。

盲ろう者へのインタビューにはさまざまな難しい点があります。手話や触手話、指点字、拡大文字、筆談など、いろいろなコミュニケーション手段を用いなければなりません。また、抽象的な語彙では充分に理解しあえない場合があり、具体的な事例を示して確かめ合いながら説明する必要もでてくるとのことです。

そのためどうしてもインタビューは長時間に及ぶことになります。1回のインタビューに休憩をはさみながら5時間も費やすそうです。

言葉の問題はとても重要です。そもそも手話と言葉とは完全に重なり合うものではありません。やはり一般的に言って、手話は語彙や表現力が限られているそうです。したがって、手話で表現されたことをそのまま読み取って言語化するのは、果たして適切なやり方なのだろうか、という悩みが生じてくるのです。話者が伝えようとしているリアリティは、限られた手話表現の枠の中におさまりきるものだったでしょうか。

松谷さんはインタビューを逐語録に起こすにあたって、手話、表情、態度、表現の強弱などを総合的に読み取って、それを逐語録の記述にも反映させるそうです。こうして言語化するのは簡単な作業ではありません。しかしそれでもやはり、分析の素材となる言語化された逐語録は、すでにリアリティを損っているのではないかという疑念は拭いきれません。逐語録の内容をすべて話者に確認してもらうことは、現実的には無理だという悩みもあります。

このような難しさを多分に抱えた調査ですが、それでも諦めることなく挑んでいけるのは、調査者である松谷さんが、それ以前に支援者であったからだといえるでしょう。

ふだんから密な関係を持ち信頼関係を確立している支援者でなければ、障害、病気の進行、就労の苦労といった、重たい話題にまで踏み込んでいくことは難しいように思います。そもそも慣れていない人では、コミュニケーションをとること自体が簡単とはいえないのです。通訳がいたとしても、通訳との相性によっては意思疎通がとりづらいこともあるそうです。

支援者が調査者になることには問題もあります。しかし松谷さんのお話しや、研究会に参加してくださった盲ろう者の方のお話しを伺っていると、現実的にいって、支援者でなければこのような調査は不可能に近いのではないかと感じました。

支援者が調査者になると、良くも悪くも共感的な態度で調査にいどむことになりがちです。松谷さん自身はそのデメリットにも言及されていました。しかしその共感は、松谷さんの調査研究の根本になっており、欠かすことのできないものであるような印象を受けました。強い共感を前提とし、共感に導かれて行われる調査。これも社会調査のひとつのあり方なのだと思います。

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