調査を語る(5) 沈殿しているものをすくいとる

2014年3月13日 by 松尾浩一郎

連載「NPOサーベイ、調査を語る」の第5回目をお届けします。東京大空襲の調査について木村豊らサーベイのスタッフたちで語り合っています。前回は「現場」で話しをきく、という手法について考えましたが、今回はそれをさらに展開させていきます。なぜ「現場」にこだわるのか? そこには「現場」に沈殿している何ものかをすくいとりたい、という願いがあるのです。

 ***

沈殿しているものをすくいとる

(上村)木村さんのリサーチクエッションっていうのは、どういう内容でどういう風に設定をされてますか。いろいろ変わったりするんでしょうけど。

(木村)調査ごとに違いますよね。何に調査に行くのかによっても違いますし、そのとき考えてることによっても。

(上村)慰霊堂の前で調査をするときは?

(木村)あそこで聞き込みをするときは、本当に、スタンダードな聞き込みで、えっと、どこから来たのか,何歳ぐらいで、亡くなった人との関係は何かで、後は、毎年来ているのかとか、今年来てどう思ったのかとか、すごい単純なことを聞いて。

(上村)それだけですか。

(木村)あそこでは何時間もできないので、10分20分とすると……。

(上村)例えば、今のご心境は、みたいなことは聞いたりしないんですか。

(木村)もともと設定している質問としてはさっき挙げたぐらいですね、何のためにここに来るんですかとか。

「沈殿しているものを感じたい」

(松尾)現場にいるっていうか、調査者がデータ収集に行ってどんな経験をしているかに興味があって聞きたいんだけど、その聞き込みの場で観察したり感じたこととかを、研究にどう生かしているかとか、教えてくれますか?

(木村)私が横網町公園のあの慰霊堂に調査をする一番の目的は、遺族会にも入っていない、自分で体験記も書いていない、家族にも話していない人が、毎年3月10日だけあそこに行って、空襲で亡くなった父親だったり母親だったりに対して、ただお参りをするってこと、戦後何の補償もなく大変な思いをしてきたのを、毎年のお参りだけで、こう、とどめておくっていうことを、なんか、そういうのを積み重ねていくと……。
最近の社会学だとインタビュー調査が流行っていて、語られることとか、すごく表に出るようなことが、社会なんだってされているような感じがするんですけど、でも私は、人の中に、こう、とどまっているっていうか、沈殿していくような社会みたいのがすごく感じて。横網町公園に行って、それが自分の中にも、他の調査とは違うものとして入ってきた、蓄積されてきたっていう感じです。

ryogoku0103

(松尾)その沈殿しているものを調査して捉える手法としては、木村君はどういう風な工夫をしてそれをくみ上げようとしてるんでしょう?

(木村)どこまでできるかっていうのは分からないんですけど、慰霊堂に来た人の話なんかは、こんなこと家族にも話したことないんですとか、今日も、ちょっと買い物に行くって言って出てきましたとか、そういう、それぞれの日常の中に、こう、慰霊堂にお参りすることがすべり込ませているような感覚っていうのを、調査の中で抽出しているっていうのが……。

(松尾)そういう沈殿しているものを引き出すっていうのでは、岩舘さんは、映像という全然違うやり方だけど、意識してるんじゃないですか?

(岩舘)言葉にならないことへの着目っていうのでは、そうかもしれないですね。映像のいいところは、やっぱり、しゃべってる人の横で、誰がどういうふうな表情でその人を聞いてるかとかも記録として残るっていうことですね。トランスクリプトに起こしちゃうと残らないんですけど、言葉にしてくれないことでも何かヒントになったりするんです。

(松尾)今日あった出来事でいったら、江戸東京博物館の裏にあった言問橋の欄干を見て、ここの影がとか、そこの傷がとか、そういうものを見ることで沈殿しているものをすごく感じたなって。やっぱり、そうやって何かを引き出せるものっていうのはとても大事。

(松尾)こうして今まで話してきて、沈殿している物を引き出すこととか、現場に居合わせることというのが、キーワードになっているような感じがします。

「現場に居合わせる調査」

(岩舘)居合わせるっていうのはすごい大事なキーワードだなって、でも、木村さんが途中でいってくれたように、居合わせたからと言って、何か、分かった気になっちゃいけない、変な現場中心主義になっちゃうからいけない。だから、居合わせることによって、分かるもの分からないもの、見えるもの見えないものみたいなものの理解は必要だと思いますけど、その場に居合わせることで、体の動きだとか身体とか、その場の音とか匂いとか雰囲気とかも共有したうえで、あるものを聴くっていうのは、大事なんだなって思うんですよ。

(松尾)そこにいればすべてが見えるわけじゃないっていうのは、本当にその通りだと思います。あと、居合わせることの意味はもうひとつあると思うんです。というのは、直感というか、そこにある小さな一部分から全体を想像することができる。もちろんそれは間違っていることもいっぱいあるでしょう。たとえば慰霊碑に行ったとして、偶然その日はいつもと違って掃除されていなかったとか、いろいろなことがあるはずです。でも、何度も何度もそこに行くことで、そこで見て自分で作ったイメージが、崩されたり、作り変えられたり。そういう意図をもって同じことを繰り返していくことも必要だと思います。

(木村)そうですね、最初はもう全然、体験っていうのはばらばらな感じ、それこそ範囲が広いので、ばらばらな感じがしてたんですけど、増えていくと、恐らくこの人とこの人は、3月10日の何時ごろにここで同じところにいたんじゃなかとか、すれ違ってたんじゃないかとかいうのがあって、話してみると、本当にすれ違ってたかもしれないねっていうのが、あったりして。どんどん、違う、全体像とは違うんですけど、見え方が変わってくるんです。

 ***

つづく。

調査を語る(4) 現場で話を聞く

2014年3月10日 by 松尾浩一郎

連載「NPOサーベイ、調査を語る」の第4回目です。前回からサーベイの木村豊が行っている東京大空襲調査について語り合う座談会の様子をお届けしています。今回はその続きです。まず話題になったのは木村のユニークなインタビュー調査の手法です。調査の方法は単なるテクニックの問題にはとどまりません。そのさまざまな意味について掘り下げていきます。

***

調査の手法——現場で話しを聞く

(松尾)今日はみんなで一緒に歩きながら木村君の調査のやり方の一端を見せたもらったんだけど、みなさんはどんなことを感じたか聞かせてくださいませんか。

(岩舘)木村さんが慰霊堂のところで、年に2回、その場で話を聞かせてもらっているんだっていうのは、現場に行って聞くと、すごく具体的にイメージができて、ああなるほどって思いましたね。確かにそこに来てるわけだから、話を聞かせて下さいっていうのも、そういう人たちだって、ある種の文脈付けもできてるわけだから。初めて現場を見て、ああそういうやり方があるんだって、いいなって思いました。

(松尾)現場での文脈付けっていうのは同感です。でもやっぱり、突然声をかけるのって、やる方も大変だろうし、やられる方も大変だろうしっていうので、ふつうはやらないものだから、あえてそれをやってるっていうのは、とてもユニークだけども、ユニークなだけじゃなくって、必然性があるんだろうなって思いました。こうしたやり方は自然に出てきたやり方なんですか?

「慰霊堂に集まる人に声をかける」

(木村)そうですね。最初はすごく緊張しますし、まあ実際怒られたり、いろいろと、もう、トラブルもあるんですけど。でも、実際あそこでしか、会とかに所属してなくて、自分で投書とかもしてない人には会えないから。毎年あそこに行くだけのだけの人もいるんで、やっぱり、そういう人たちの声を拾っていきたいっていうか、そういうのをつかまえたいっていうのがあって、やるようになったっていう。

(松尾)そういうやり方をすることについて、まわりの研究コミュニティの人たちの反応はどんな感じでした?

(木村)そうですね、最初は他の人に話しても、そんなことやるんだみたいな感じで、なんかしっくりこない感じだったんですけど。他に遺族会を通した聞き取りもやっていて、遺族会には1000人近く会員がいるので、そっちをやるるほうがずっと簡単なわけですし。でも実際に、聞き取ったデータを出していくと、やっぱり面白いんだねっていう反応が返ってくるようになってきたなっていうのはありますね。

ryogoku0102

(上村)文脈っていうのは必要ですよね。私の社会福祉研究なんかの場合は、例えば職員としてかかわっていたりとか、サービス提供者としての悩みっていうのを持っていて、それで日常が進んでいくというか、その、障害者の人とのかかわりの中で、どうしていったらいいのかとか、とても日常的なことだけども、でも空襲なんて言うのは日常的なことじゃないですよね。

「資料の質が変わってくる」

(木村)遺族会のような組織を通じて聞くのよりも現場で聞くのがいいっていうのは、遺族会で紹介受けて、その人の家に行って、毎年3月10日は何をしてますかって聞いて、慰霊堂に行きますっていう話を聞くのと、慰霊堂に行って、そこに来た人に今日どうしてきたんですかって聞くのでは、全く同じ語りにはなるんだけど、全然こう、資料の質が変わるっていうのがあって。

(上村)社会福祉の調査でいえば、企業で働いている障害者をターゲットにしたときに、企業の場で話を聞くのと、家に帰ってから聞くのとでは、ちょっと違うかな、何か違うものが出てくるのかな。でも、企業の中に入りこんでいくっていうのは難しかったりするんですけど。
慰霊堂に集まる人たちにうまく入り込んでいくっていうのは、勇気もいるでしょうし、すごいいいアイデアなんだろうなって思うんですけど、ちょっと気になるのは、研究倫理とかはどうなのかなって。

(木村)その、調査の正当性みたいのが、倫理を含めてすごい議論されてきているように感じるんですが、でも、どうなんですかね。私の場合は、後付けができればいいんじゃないかなって思いますね。調べることよりも公開することの方に倫理問題が強くあるのであって、調べる段階からガードを固めちゃうと、かなり調査自体が自粛しちゃう感じがして、だから私は調べることについては、基本的にガードをかけないで、できることはできるだけやるっていうようにして。

(岩舘)さっきのデータの質が変ってくるっていうのは、どう変わってくるんですか。

(木村)やっぱり、その、空襲から60何年たって、結構なお齢で、皆さん70代80代なわけですけど、その人たちにとって、毎年あそこに行くって、今年もここに来れたっていうのがすごく、重要なことで。そこに自分も立ち会えたような、なんか、今年もここに来れたんですっていう感覚に、自分もそこに居合わせたっていうのが、なんか調査としてはすごい大きいかなって。

(松尾)で、相手の人達にとっても、毎回木村君がいるっていうのも、その慰霊祭のひとつの風景になっていたらいいよね。

(木村)それはありますね。まあ、当事者団体とかに行けばよく会うとかはあるんですけど。慰霊堂なんかでも、私は3月10日も9月1日も毎年、2006年からずっと来てますし、他の日でも定期的にあそこには来ているので、そうすると、3月10日にあそこら辺をふらふらしていると、声をかけられて、なんか久しぶりだね、みたいに言ってくれる人もいますね。

***

(つづく)

調査を語る(3) 東京大空襲に出会う

2014年3月6日 by 松尾浩一郎

連載「NPOサーベイ、調査を語る」の第3回目です。この連載では木村豊による東京大空襲調査のフィールドを訪ねています。これまでの第1回第2回ではビデオ映像をお届けしましたが、今回からは趣向を変えて、座談会の模様をお伝えしたいと思います。

この座談会に参加したのはNPOサーベイのスタッフです。木村のほかに、上村勇夫、岩舘豊、松尾浩一郎のあわせて4人が集まりました。横網町公園の東京都慰霊堂などを歩いたあと、両国のとある喫茶店で4人の対話が行われました。木村の調査を題材としつつも、それぞれが社会調査についてさまざまな考えを述べ、意見を交換したのです。まず最初の話題になったのは調査を始めた動機、きっかけです。

***

東京大空襲に出会う

(上村)木村さんはどうして東京大空襲に興味をもたれたんだろう。まずはその辺から改めて聞かせていただけたら……。

(木村)そうですね、どこにきっかけみたいのを見るかっていうのは難しくて。自分が学部3年の時に、戦後60年で、そのとき社会科の教員免許を取ったり、あとは博物館の学芸員の資格をとったりしていたので、教材研究だったり、展示実習だったり、そういうので、戦争の問題を取り上げていた中で、東京大空襲というものと出合ったっていうのが、きっかけといえばきっかけなんですけど。
まあ、出会ったっていうことは、すごく偶然に見つけたっていうのに過ぎないような感じがしていて。そこから、卒業論文、修士論文、そして今の博士論文まで、続けてきたっていうのは、今思い返してみても、なんで自分はこんなに続いたのかなっていうことがすごくあります。ただきっかけ自体は、すごく偶然に近いなって。それで、続けてきた、続けられるのは何でかなっていうふうに自分でも思いますね。

ryogoku0101

(上村)学部生のときの教材研究などで取り上げたということだけど、さらにもっと知りたいって思うようになったのは?

(木村)そうですね、まあ、社会科の教員になるための授業を取っていくと、歴史とか地理とか政治経済とかある中で、全部に専門性は持てないので、どこかひとつをピックアップして、専門的に学んで、自分のオリジナルの授業とか教材を作るのをやるんです。それで私は、人があまりやりたがらないような単元っていうのを、やりたくて。でも、戦争やハンセン病の授業をつくって見たけれど、物足りないなって感じがして、もうちょっと続けてみようかなっていう感じがして。

(岩舘)戦争のことはもっと知りたいっていうのは話してて分かったんですけど、でもじゃあ東京大空襲で、かつ、その人たちに直接話を聞きに行こうっていうふうになったのは、どうしてだったんですか?

(木村)自分の中で大きかったのは、墨田区に「すみだ郷土文化資料館」っていうのがあって、空襲の体験画を収集している資料館なんですけど、そこで4年生の時に博物館実習っていうのを3週間やったんです。資料館の展示を作るという役割で関わらせてもらったんですけど、そこでいろいろ体験者の方とか紹介して貰ったり、実際に体験を書いた人の話を聞いたりしました。それはすごいインパクトがあって、やっぱり、社会科をやってたんで、空襲を受けてすごい被害を受けたっていうのは何となく知った気でいたんだけれども、空襲の絵を見たときに、なんか自分が知っていた空襲イメージみたいなものが、壊れるような感覚っていうのがあって。

(松尾)それはどういうイメージだったの?

(木村)イメージの中でも本当に大変だったんだろうなっていうのは、もともとあったし、体験記なんかも読んではいたんですけど、体験画の中で、その素人が描いた絵なので、うまくはないんですけど、なんかものすごい力強いタッチの絵が……。なんて言ったらいいのか分からないんですが、すごいショックを受けて。
展示っていうのは、研究と同じで、表現する一つの方法なんですけど、これを資料展示していいですよって言われて、自分に何ができるんだって、これ自分が勝手に並べちゃっていいのかって、すごい葛藤があって。それをなんか、苦しみながら、自分の展示を作りたいっていう。こう、デッサンをつくって出すんですけど、出した時に、やっぱり、もっと知らないとダメだなっていう風に感じちゃったっていうのはあります。東京大空襲をやろうっていう風になったなかでは、そこがすごい大きいです。

***

(つづく)

「NPOサーベイ、調査を語る」(2)

2014年3月3日 by 松尾浩一郎

先日はじまった連載「NPOサーベイ、調査を語る」。サーベイのスタッフ木村豊が取り組んでいる東京大空襲調査に焦点を当てています。前回は「東京大空襲調査のフィールドから・前編」と題して、東京都墨田区を歩き大空襲の傷跡を訪ねる様子を、ビデオ映像でお伝えしました。いかがだったでしょうか。

今回は第2回目をお届けします。「東京大空襲調査のフィールドから」の後編です。主役である木村にインタビューをして、いろいろなことを聞いています。話題となったトピックには次のようなものがあります。

  • 「はなしをしずかにきく」
  • 調査を始めたきっかけ
  • 調査の「問い」
  • 調査の方法
  • 慰霊堂でインタビューする理由
  • 調査の難しさ
  • 調査をつづける動機

およそ9分間の映像です。ぜひご覧ください。このページで再生できない時はこちらのリンク「NPOサーベイ 調査を語る 両国編 2」からどうぞ。

これからも週2回、月曜と木曜に更新していきます。次回もご期待ください。

連載開始「NPOサーベイ、調査を語る」(1)

2014年2月27日 by 松尾浩一郎

「ゆるやかで多様な調査経験の場」づくりをめざしてNPOサーベイが活動をはじめたのは、今から5年前の2009年のことでした。これまで色々な試みをしてきましたが、とくに力を入れてきたのは、社会調査の最前線でご活躍なさっているさまざまな方をお呼びして、研究会やワークショップなどを開催することでした。

こうした研究会やワークショップでは、いつも興味深い話題提供があり、刺激的な対話があったように思います。いろいろな方々の調査経験や考えを聞き、多くの刺激をいただくことができました。そして今、こうしたことを受けて感じるのです。次は私たちの番ではないか、と。

サーベイのスタッフもみな、それぞれの形で自分の調査研究に取り組んでいる調査者です。ひとりの調査者としてどのようなことを行っているのか、どのようなことを考えているのかを、みなさんに向けて表現してみたらどうだろう。また、それを踏まえてサーベイのスタッフたちで語り合い、その議論のあらましをまとめて、みなさんに投げかけてみたらどうだろう。そう考えたのです。

かくしてここに、私たちからみなさんに向けて発信する場をつくることにしました。題して「NPOサーベイ、調査を語る」。普段の研究会やワークショップとは趣を変えて、インターネットを舞台としてみたいと思います。これから私たちのブログ「NPO Survey Speak Out!」で連載をしていきます。

まず先陣を切るのは木村豊です。サーベイでは事務局を担当しています。東京大空襲に焦点をあわせた調査に取り組んでいます。彼自身とサーベイのスタッフで、彼の東京大空襲調査をめぐってエクスカーションや座談会、そしてインタビューなどを行い、その様子を映像と文章にまとめてみました。

これから8回にわたって連載をします。第1回目となる今回はビデオ映像をご覧頂きたいと思います。木村の主なフィールドである東京都墨田区を訪れて、東京大空襲とその調査を見つめようとするものです。およそ10分間程度です。ぜひご鑑賞ください。

このページで再生できないときは、こちらのリンク「NPOサーベイ 調査を語る 両国編 (1)」からもご覧になれます。

連載は月曜と木曜の週2回更新です。ぜひ今後の連載にもご期待ください。(つづく)