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「調査実習という経験」印象記・その1

2010年12月9日 木曜日

去る12月4日に開催されたイベント「調査実習という経験」の様子をお伝えしていこうと思います。このブログで参加者のみなさんのコメントなどを連載していきます。週2回、月曜と木曜に更新する予定です。まずは私が当日の様子を振り返ってみることにします。

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話題提供をつとめて下さったゲストは青木海さん、工藤将充さん、黒野亜由美さん、前田雅俊さんの4名でした。いずれも石川良子さんが担当された調査実習の元メンバーの方々です。ふたりの大学4年生とふたりの卒業生という組み合わせでした。

座談会形式で4人それぞれの調査実習の経験を語っていただきました。彼ら彼女らが取り組んだ調査はいわゆる質的調査でした。「戦争」であるとか「本土のなかの沖縄」といったテーマにもとづいて、ライフストーリーを聴き取り、作品化を行ったのです。

石川実習は方針として「調査対象者その人としっかり出会う」「見聞きし感じたことを伝える」といったことを掲げていました。自然と「楽」とは決して言えない実習になったようです。トランスクリプトの徹底的な読み込み、メンバー同士での議論、再調査、報告書執筆と文章の磨き上げ作業……。

4人はそれぞれ紆余曲折、試行錯誤を重ねて、この実習を成し遂げました。何度も途中でドロップアウトしようと思ったという述懐もありましたが、彼ら彼女らは「神奈川県出身の沖縄人」「三線は『人生そのもの』」「『平和』と『子育て』の2つの活動の中で」「空回りのインタビュー――振り返って見えてきたもの」と題した報告書を書き上げました。

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青木さんは「相手と噛み合わずうまくインタビューができなかったけれど、話をしてもらえた経験は面白かった」と語ってくれました。というのも、自分が予め考えていたことでなく、相手の語ることから考えていくという経験は、自分の枠が壊されていくようで、それが楽しかったのだそうです。

工藤さんは「1回目のインタビューがうまくいかず焦った」りもしたけれど「途中でやめようと思ったことは全然なかった」「楽しかった」と語ってくれました。インタビューも実習メンバーとの議論も、学生生活の中で大きな比重を占める、充実したものだったと言います。

黒野さんは調査対象者の方に原稿を見て頂いた際に「これを読んだら私のことをわかってもらえるわね」と喜ばれるという経験をしました。対象者の期待や信頼に応えようとすることで、よりいっそう調査に力が入ったようです。実習メンバーの仲間たちとの同士的な関係を築けたことも大きかったとのことでした。

前田さんは3回のインタビューを重ねたものの、うまく聴くことができず、インタビュー自体は「失敗だった」と言います。しかしその後、トランスクリプトを深く読み込むうちに状況は一変しました。対象者のことを深く考えることで自分自身も見えるようになり、一気に惹きこまれていったのです。前田さん自身は「インタビューが終わった後、始まった」と表現してくれました。

(つづく)

12月4日「調査実習という経験」趣旨

2010年11月16日 火曜日

12月4日(土)のイベントで司会を務めさせていただく小倉です。速報でお知らせしましたとおり、次回のイベントは「調査実習という経験――調査は研究のためだけのもの?」というテーマで開催します。

社会調査士資格も創設され、研究者になるわけでもなく社会調査を学ぶ人が多くなりました。では、そうした人びとにとって、調査をするという経験はどんな意味をもっているのでしょうか。それを考えることは、社会調査そのものの意味、さらには社会のなかの社会調査ということを、ひろく・ラディカルに問うことにつながっていくでしょう。

そこで、今回のイベントでは、一年間の調査実習を経験し、現在は社会人として活躍されている方を中心とした元実習メンバーと、その担当者をお呼びして、彼・彼女らの声に耳を傾けてみたいと思います。

お呼びするのは、明治学院大学で社会調査実習を担当されている石川良子さんと、その元実習メンバー4人の方々です。

石川さんは「一年という時間をかけて、ちゃんと人と出会うこと」を大事にされ、元実習メンバーの方々も、つまずいたり挫折したりしながらも、途中で諦めることなく最後までそれを実践しつづけました。

それは、いったいどんな経験だったのでしょうか。元実習メンバーの方々は、さまざまな困難に直面しながらも、なぜ諦めようとはしなかったのでしょうか。また、一年を通してひとりの他者とじっくりつきあうという調査経験から、なにを得たのでしょうか。そしてその調査経験は、彼・彼女らの人生において、その後の社会生活において、どんな意味をもっているのでしょうか。

調査経験の社会的意味、調査と社会とのかかわり、さらには社会科学と人間とのかかわりについて考える、かっこうの機会だと思いますので、みなさま奮ってご参加ください。

会場などの要綱につきましてはこちらの記事をご覧下さい。

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NPOサーベイは、専門研究者のためだけではない、社会調査の大きな広がりに眼を向けていきたいと考えています。

前回のイベントでも、研究者はもちろん、現場の方、行政マン、実務家、学生、生活者と、当NPOならではの参加者が集い、横断的でざっくばらんなコミュニケーションがくりひろげられました。

今回も、いろんな立場の方々が参加してくださることを、とても楽しみにしております!

話題提供者より

2010年9月13日 月曜日

私は調査初心者および現場&研究両事者という立場から、「現場に役に立つ研究を考える」というテーマで、私の悩んだ体験を中心に話題提供をさせていただきました。話題提供の内容は以下の二点です。

(1) 修士論文のテーマ設定の経緯

「現場に役に立つ」テーマ設定を目指し苦労しました。複雑多岐にわたる「現場」で起こっていることに対する自分の「思い」がある一方で、研究の作法(ex.テーマの焦点化、概念化、先行研究のレビューなど)にのっとったテーマ設定が求められる。その上「現場に役に立つ」ことを目指したので苦労をしました。

(2) アンケート調査に対する現場側の不信感が感じられるエピソード

今回の勉強会でみなさまから様々なアドバイスをいただき、自分の研究計画の甘さに気づかせいただいたり、また勇気をいただいたりしました。

最も大きな収穫としては、改めて「表現すること」の重要さを認識できたことです。研究計画の段階では、なぜこのテーマが重要なのか、なぜこの調査方法でやるのか、といったことをきちんと説明できるようにすること、そして調査を終えた後はご協力いただいた方に研究成果をきちんとフィードバックする(論文をただ渡すだけではなく、現場の方になじみやすいように工夫もする)ということ。

自分では「役に立つ」と思っていても現場にとっては必ずしもそうではないこともあるし、その逆もある。「役に立つ」ことを意識しつつ現場とのコミュニケーションを密にしていき対話の中でより良い形を見つけていく姿勢を大切にしたいと感じました。

勉強会で貴重なご意見をいただきましたみなさま、そしてこのような機会をいただきましたNPOサーベイのみなさまに改めてお礼を申し上げたいと思います。

社会調査懇談会コメント(4)

2010年8月23日 月曜日

社会調査懇談会「その悩みや思いを語る」にご出席くださった方々からさまざまなコメントを頂戴しました。

そのいくつかをこのブログで紹介しています。第4回目は西倉実季さんから寄せられたコメントです。以下引用します。

決して論文化されないようなエピソードや体験談ばかりで、うんうんと頷くことばかりでした。セルフヘルプ効果のある集まりだったと思います。

自分としては、私の研究を通して、調査対象者の困難が社会に媒介されていけばいいなという思いでやっていたのですが、現場の人(支援者)にもっとも評価されたのは、英語でしか読めない海外の研究や動向をまとめたことに対してでした。

この経験を通して、「役に立つかどうか」は最初から掲げるような目標というよりは、事後的にしかわからないものなのではないかと思うようになりました。「役に立つ」のかどうかを判断するのは、研究者ではなく現場だと思うのです。

もちろん、なんとか役に立ちたいという気持ちであるとか、成果のフィードバックをつねに念頭に置かなければいけないことは、その通りだと思うのですが…。

また、ひとことで“現場”といっても、私の場合ですが、当事者、支援者、家族など様々な立場の人がおり、利益関係が対立しているときもあるので、難しいです。

どうもありがとうございました。当日配布された参考資料についてはこちらからダウンロードできます。当日の模様については当ブログ8月11日付記事の印象記もご参照ください。

社会調査懇談会コメント(1)

2010年8月12日 木曜日

社会調査懇談会「その悩みや思いを語る」にご出席くださった方々からさまざまなコメントを頂戴しました。

そのいくつかをこのブログで紹介しています。第1回目は松尾奈々さんから寄せられたコメントです。以下引用します。

調査を中心に集まれたこと、様々な人の思いや考えを聞けたことが良かったです。

ここ8ヶ月、調査にふれていませんでしたが、あらためてデータや“現場”、関わりのある方にふれたくなりました。

有意義な会をひらいていただきありがとうございました。また参加できたらと思っています。

どうもありがとうございました。当日配布された参考資料についてはこちらからダウンロードできます。当日の模様については当ブログ8月11日付記事の印象記もご参照ください。