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「調査実習という経験」印象記・その2

2010年12月13日 月曜日

(前回からのつづき)

去る12月4日に開催された「調査実習という経験」の様子をお伝えしています。ゲストの話題提供のあとは参加者みんなでの意見交流の時間となりました。今回は質疑応答のなかでも印象に残ったものをいくつかご紹介します。

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Q: 楽しいから厳しい実習も挫折せずにできたとのことだが、楽しいだけでできるほど簡単なものではなかったのではないか。モチベーションはどこにあったのか。

A: バイトやクラブ活動で忙しかったが、充実していたので両立できた。バイトなど働くことならば将来いくらでもできる、今しかできないこと(調査という経験)を優先しようと思うようになった。

Q: 具体的なテーマに絞るのではない「人生を聴く」ようなインタビューはどのような感じだったか。どこまで行けば「その人と出会う」「その人をわかる」ことができるのだろうか。

A: 初めは自分の仮説やテーマを追求するようなインタビューをしていたが、次第に対象者の方は人生を伝えたいと思っていることがわかってきた。人生を教えてくれた。テーマとは関係ないようなことでも、そこにその人の人生が表現されていることもある。

Q: 授業の課題としてインタビューしていたか、それとも一人の人間としてインタビューしていたか。それには変化はあったか。

A: 初めは課題という意識が強かったり、そのようなことを考える余裕はなかった。しかし次第に変化していき、一人の人間として聴き、トランスクリプトを読むようになった。合宿などを契機に実習メンバーでお互い刺激し合うことができるようになった。

Q: 調査実習を終えて、他の人にも聴いてみたいとか、もっと違うことも聴いてみたいと思うことはあるか。調査の経験を発展させていくことはできているか。

A: 忙しいので考える余裕はなかったり、日常生活で直接的に経験を活かすことはないかもしれない。それでも何らかの形で調査経験を活かすことはできているように思う。仕事の世界・実社会と調査は通じる面がある。たとえば人の見方、人との関わり方、意見の伝え方など。とことん人と関わる調査をしたことで自己理解が深まった。自分の生き方を見つめることにつながっている。

他にもいろいろなことが話題にのぼりました。どのような反省があるか、もう一度調査をするならどのようにしたいか、自分自身の発想を忘れないことの重要性、研究目的でない調査の自由や可能性、異なるスタイルの調査では対象者との関わり方も異なること……。4時間近い長い会となりましたが、議論は尽きることはありませんでした。

「調査実習という経験」印象記・その1

2010年12月9日 木曜日

去る12月4日に開催されたイベント「調査実習という経験」の様子をお伝えしていこうと思います。このブログで参加者のみなさんのコメントなどを連載していきます。週2回、月曜と木曜に更新する予定です。まずは私が当日の様子を振り返ってみることにします。

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話題提供をつとめて下さったゲストは青木海さん、工藤将充さん、黒野亜由美さん、前田雅俊さんの4名でした。いずれも石川良子さんが担当された調査実習の元メンバーの方々です。ふたりの大学4年生とふたりの卒業生という組み合わせでした。

座談会形式で4人それぞれの調査実習の経験を語っていただきました。彼ら彼女らが取り組んだ調査はいわゆる質的調査でした。「戦争」であるとか「本土のなかの沖縄」といったテーマにもとづいて、ライフストーリーを聴き取り、作品化を行ったのです。

石川実習は方針として「調査対象者その人としっかり出会う」「見聞きし感じたことを伝える」といったことを掲げていました。自然と「楽」とは決して言えない実習になったようです。トランスクリプトの徹底的な読み込み、メンバー同士での議論、再調査、報告書執筆と文章の磨き上げ作業……。

4人はそれぞれ紆余曲折、試行錯誤を重ねて、この実習を成し遂げました。何度も途中でドロップアウトしようと思ったという述懐もありましたが、彼ら彼女らは「神奈川県出身の沖縄人」「三線は『人生そのもの』」「『平和』と『子育て』の2つの活動の中で」「空回りのインタビュー――振り返って見えてきたもの」と題した報告書を書き上げました。

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青木さんは「相手と噛み合わずうまくインタビューができなかったけれど、話をしてもらえた経験は面白かった」と語ってくれました。というのも、自分が予め考えていたことでなく、相手の語ることから考えていくという経験は、自分の枠が壊されていくようで、それが楽しかったのだそうです。

工藤さんは「1回目のインタビューがうまくいかず焦った」りもしたけれど「途中でやめようと思ったことは全然なかった」「楽しかった」と語ってくれました。インタビューも実習メンバーとの議論も、学生生活の中で大きな比重を占める、充実したものだったと言います。

黒野さんは調査対象者の方に原稿を見て頂いた際に「これを読んだら私のことをわかってもらえるわね」と喜ばれるという経験をしました。対象者の期待や信頼に応えようとすることで、よりいっそう調査に力が入ったようです。実習メンバーの仲間たちとの同士的な関係を築けたことも大きかったとのことでした。

前田さんは3回のインタビューを重ねたものの、うまく聴くことができず、インタビュー自体は「失敗だった」と言います。しかしその後、トランスクリプトを深く読み込むうちに状況は一変しました。対象者のことを深く考えることで自分自身も見えるようになり、一気に惹きこまれていったのです。前田さん自身は「インタビューが終わった後、始まった」と表現してくれました。

(つづく)