‘NPOサーベイについて’ タグのついている投稿

「NPOサーベイ」像をたしかなものにしてくれた一周年記念イベント

2010年9月6日 月曜日

ささやかな足どりではありますが、みなさまのご支援・ご協力のおかげで、NPOサーベイが満一歳の誕生日を迎えました。最初はなにからなにまで暗中模索の状態でしたが、一年を経て、ようやくこのNPOのアイデンティティといいますか、固有の意義について、ぼくのなかで像が結ばれてきたように思います。

社会調査の制度・しくみが高度化し、窮屈で画一的な調査の道具化(ぼくは「社会調査のマクドナルド化」と言っているのですが…)が進行しているように感じる昨今、調査会社でも、シンクタンクでも、大学の形式的な調査プログラムでもない、むしろそこからこぼれ落ちるものの受け皿(コミュニケーションの場)をつくり、社会調査に関するさまざまな困難や障壁を乗り越えていくためのつながりの場としていくこと。そこから社会調査の面白さと奥深さを再発見していくこと。そのために、「社会調査をするひと」だけではなく「社会調査を受けるひと」「社会調査を学ぶひと」「社会調査で知りたいひと」をつなぎ、それぞれの立場からの経験をもちよって、失敗やためらい、迷いを相談し、検討しあえる場をつくっていくこと。それが、ぼくのなかで少しずつ結ばれてきたNPOサーベイ像です。

7月31日に開催した設立一周年記念イベント「社会調査懇談会――その悩みや思いを語る」も、そんな「場」づくりの一環として企画したものでした。

研究者はもちろん、現場の方、行政マン、実務家、学生、生活者と、当NPOならではの参加者が集い、「現場に役に立つ調査研究とはどういうものか」「そもそも役に立つとはどういうことなのか」「複雑な現場と、テーマや変数を絞らなければならない研究の作法と、私の思いとのあいだの葛藤を、どう解決していけばよいのか」「研究者からヒアリング調査を受けることが多々あるが、必ずといっていいほど自分が言ったことがちゃんと伝わっていないのはなぜか」「当事者ではない人間が当事者の体験をききとることとは、結局どういうことなのか」「目の前のひとに役立つ研究と、論文として成り立つ研究をいかに両立させていくか」「調査につきまとう政治性と調査知見をフィードバックすることの困難性」「調査することの迷惑」等々、それぞれの立場ならではの意見が率直に述べられ、自由闊達な議論がおこなわれました。

参加者の西倉さんも感想を寄せてくださったように、けっして論文化されないけれども、社会調査の根源にかかわってくるような、セルフヘルプ的なコミュニケーションがそこに展開されていたのではないかと思います。なにより、とつとつと正直に語られる参加者のみなさんの表情がよかった!

現実を共同構築していく時代の社会調査ということに思いを馳せるとき、もしかしたらこれは画期的な場になっているのではないか。ささやかなものかもしれないけれど、エキサイティングでチャレンジングな場が生成されているのではいか。そんな実感を抱きました。

その意味で、このイベントは、ぼくのなかで少しずつ結ばれてきていたNPOサーベイ像をたしかなものにしてくれる(そして、今日の社会調査をめぐる課題と可能性を鋭敏に直視させてくれる)、そんな貴重なひとときになりました。

そんな「場」をつくりだしてくださった参加者のみなさんに、厚く厚くお礼申しあげます。

NPOサーベイ設立の私なりのこころざし(3)

2010年1月15日 金曜日

(前回よりつづき)

oshima前回、「社会調査をするひと」だけでなく、「社会調査を受けるひと」が自らの実践を可視化し、次の世代に伝えることが重要、ということを指摘しました。

この点について、もう少し考えてみたいと思います。

もともと社会調査は、社会福祉の援助技術のひとつとして位置づけられています。私自身も「社会福祉援助技術各論」という名称の授業が社会調査の基礎に相当する授業であった記憶があります。

このように援助技術のひとつにも関わらず、福祉現場はあくまで「社会調査をうけるひと」の役割に徹していたように思います。

しかし、社会福祉の実践を可視化し、次の世代に伝えるためには、2つの転換が必要です。

ひとつは、受け身の「社会調査をうけるひと」はやめることです。もうひとつは、自らが「社会調査をするひと」「社会調査を学ぶひと」になる可能性を否定しないことです。

福祉現場で働く方々は、自分たちの実践活動そのものや、日々の支援記録など実践を可視化するための材料を沢山持っています。
その価値に自分たち自身も気づいて大切にしてほしいのです。「社会調査をするひと」は、「社会調査をうけるひと」からもっともっと厳しい目が向けられてよいと思うのです。
また、自らの実践を高め、次の世代に伝えるためにも社会調査にもっともっと主体的に関わってもらいたいのです。

平成19 年に公布された「社会福祉士及び介護福祉士法等の一部を改正する法律」によって社会福祉士の国家試験受験科目に「社会調査の基礎」という新しい科目が加わり、平成21年度から新カリキュラムがスタートしています。
(この時期と同じくしてNPOサーベイの活動がスタートしたことは個人的にもとても嬉しいことです)

私自身も、社会調査をするひとでもあり、学ぶひとでもあります。時には社会調査を受けるひとにもなります。

NPOサーベイは、ゆるやかな場ではありますが、こころざしはあります。NPOサーベイを様々な立場から社会調査に関わる人がつながる場にすること通じて、私を育ててくれた福祉の現場に感謝の意を表したいと思うのです。

(おわり)

NPOサーベイ設立の私なりのこころざし(1)

2009年11月14日 土曜日

oshimaNPOサーベイの設立メンバーの中で、私は異色といえるでしょうから、自己紹介も兼ねNPOサーベイ設立の私なりのこころざしを語ろうと思います。

私は、「気づかない人は気づかない,控えめな大学(本当にその通りなのです)」で社会福祉を学んできました。

が、学部生時代はホームヘルパーのアルバイトに明け暮れ、社会調査を真面目に学んだ記憶がありません(先生方、ごめんなさい)。調査に主体的に関わるようになったのは、大学院入学後です。

大学院入学後は、調査に関して知識も技術も非常に乏しかったので、とにかく調査に首を突っ込んで関わるようにしていました。

その結果、自分が中心となって行わせていただいた社会調査以外にも、様々な分野の社会福祉領域の調査現場を垣間見ることができたと思います。

この大学院生時代の経験で印象に残っていることがあります。インタビューをさせていただいたアイヌの語り部のおばあさんの言葉です。

「自分は文字を書くことができない。自分が死んだら、先祖から受け継いできた言い伝えがここで途絶えてしまう。言い伝えを記録に残して次の世代に伝えたい。だからまだ死ねない」。

アイヌの方々に限らず、様々な分野で似たようなことが起きているように感じます。もちろん福祉の現場でも同様です。

(つづく)

社会調査の系譜とNPOサーベイ(1)

2009年11月7日 土曜日

matsuoNPOを設立しようというアイディアが形になりはじめたのは、今から1年ほど前のことだったでしょうか。春休みや夏休みの時間を活かして慣れない役所通いをし、なんとか法人化にこぎ着けることができました。慌ただしいことや面倒なこともありますが、やはり新しいことに取り組む楽しさは大きいものです。

これから何回かにわたって、NPOサーベイ設立のこころざしのようなものについて書いて行こうと思います。メンバー4人それぞれの思いがあるでしょうが、私のばあい「先行者たちに学ぼう」という発想が根幹になっています。

社会調査史上にはすぐれた調査家が数多くいますが、とくに社会調査の世界がとてもスリリングだった20世紀前半には、独立した立場で自由な調査を繰り広げた調査家たちが目立ちます。彼ら彼女らのような立場で調査活動に関われたらなんと素晴らしいことでしょう。自分の足で立つための拠点とするためにもNPOをつくってみよう。そう考えたのです。

Paul_Kelloggこれから私が特に共感する先行者を何人か紹介して行くつもりですが、まず最初に挙げなければならないのはポール・ケロッグ(Paul U. Kellogg 1879-1958)でしょう。

ケロッグは米国ミシガン州生まれのジャーナリスト・社会事業家です。彼は雑誌『サーベイ』の編集者として、社会調査や社会改良運動に活躍しました。NPOサーベイの名前も、彼の拠点となった組織「サーベイ・アソシエイツ」から借りたものなのです。

(つづく)