連載「NPOサーベイ、調査を語る」の第4回目です。前回からサーベイの木村豊が行っている東京大空襲調査について語り合う座談会の様子をお届けしています。今回はその続きです。まず話題になったのは木村のユニークなインタビュー調査の手法です。調査の方法は単なるテクニックの問題にはとどまりません。そのさまざまな意味について掘り下げていきます。
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調査の手法——現場で話しを聞く
(松尾)今日はみんなで一緒に歩きながら木村君の調査のやり方の一端を見せたもらったんだけど、みなさんはどんなことを感じたか聞かせてくださいませんか。
(岩舘)木村さんが慰霊堂のところで、年に2回、その場で話を聞かせてもらっているんだっていうのは、現場に行って聞くと、すごく具体的にイメージができて、ああなるほどって思いましたね。確かにそこに来てるわけだから、話を聞かせて下さいっていうのも、そういう人たちだって、ある種の文脈付けもできてるわけだから。初めて現場を見て、ああそういうやり方があるんだって、いいなって思いました。
(松尾)現場での文脈付けっていうのは同感です。でもやっぱり、突然声をかけるのって、やる方も大変だろうし、やられる方も大変だろうしっていうので、ふつうはやらないものだから、あえてそれをやってるっていうのは、とてもユニークだけども、ユニークなだけじゃなくって、必然性があるんだろうなって思いました。こうしたやり方は自然に出てきたやり方なんですか?
「慰霊堂に集まる人に声をかける」
(木村)そうですね。最初はすごく緊張しますし、まあ実際怒られたり、いろいろと、もう、トラブルもあるんですけど。でも、実際あそこでしか、会とかに所属してなくて、自分で投書とかもしてない人には会えないから。毎年あそこに行くだけのだけの人もいるんで、やっぱり、そういう人たちの声を拾っていきたいっていうか、そういうのをつかまえたいっていうのがあって、やるようになったっていう。
(松尾)そういうやり方をすることについて、まわりの研究コミュニティの人たちの反応はどんな感じでした?
(木村)そうですね、最初は他の人に話しても、そんなことやるんだみたいな感じで、なんかしっくりこない感じだったんですけど。他に遺族会を通した聞き取りもやっていて、遺族会には1000人近く会員がいるので、そっちをやるるほうがずっと簡単なわけですし。でも実際に、聞き取ったデータを出していくと、やっぱり面白いんだねっていう反応が返ってくるようになってきたなっていうのはありますね。
(上村)文脈っていうのは必要ですよね。私の社会福祉研究なんかの場合は、例えば職員としてかかわっていたりとか、サービス提供者としての悩みっていうのを持っていて、それで日常が進んでいくというか、その、障害者の人とのかかわりの中で、どうしていったらいいのかとか、とても日常的なことだけども、でも空襲なんて言うのは日常的なことじゃないですよね。
「資料の質が変わってくる」
(木村)遺族会のような組織を通じて聞くのよりも現場で聞くのがいいっていうのは、遺族会で紹介受けて、その人の家に行って、毎年3月10日は何をしてますかって聞いて、慰霊堂に行きますっていう話を聞くのと、慰霊堂に行って、そこに来た人に今日どうしてきたんですかって聞くのでは、全く同じ語りにはなるんだけど、全然こう、資料の質が変わるっていうのがあって。
(上村)社会福祉の調査でいえば、企業で働いている障害者をターゲットにしたときに、企業の場で話を聞くのと、家に帰ってから聞くのとでは、ちょっと違うかな、何か違うものが出てくるのかな。でも、企業の中に入りこんでいくっていうのは難しかったりするんですけど。
慰霊堂に集まる人たちにうまく入り込んでいくっていうのは、勇気もいるでしょうし、すごいいいアイデアなんだろうなって思うんですけど、ちょっと気になるのは、研究倫理とかはどうなのかなって。
(木村)その、調査の正当性みたいのが、倫理を含めてすごい議論されてきているように感じるんですが、でも、どうなんですかね。私の場合は、後付けができればいいんじゃないかなって思いますね。調べることよりも公開することの方に倫理問題が強くあるのであって、調べる段階からガードを固めちゃうと、かなり調査自体が自粛しちゃう感じがして、だから私は調べることについては、基本的にガードをかけないで、できることはできるだけやるっていうようにして。
(岩舘)さっきのデータの質が変ってくるっていうのは、どう変わってくるんですか。
(木村)やっぱり、その、空襲から60何年たって、結構なお齢で、皆さん70代80代なわけですけど、その人たちにとって、毎年あそこに行くって、今年もここに来れたっていうのがすごく、重要なことで。そこに自分も立ち会えたような、なんか、今年もここに来れたんですっていう感覚に、自分もそこに居合わせたっていうのが、なんか調査としてはすごい大きいかなって。
(松尾)で、相手の人達にとっても、毎回木村君がいるっていうのも、その慰霊祭のひとつの風景になっていたらいいよね。
(木村)それはありますね。まあ、当事者団体とかに行けばよく会うとかはあるんですけど。慰霊堂なんかでも、私は3月10日も9月1日も毎年、2006年からずっと来てますし、他の日でも定期的にあそこには来ているので、そうすると、3月10日にあそこら辺をふらふらしていると、声をかけられて、なんか久しぶりだね、みたいに言ってくれる人もいますね。
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